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何を手にいれた? じゃなくて。

どれだけ笑って、どれだけ泣いたか。立ち止まって考える。

洒落怖 姦姦蛇螺

http://nazolog.com/blog-entry-5117.htmlより

概略

少年たちがふざけ姦姦蛇螺

に出会ってしまい、お祓いするまでのお話。

 

小中学の頃は田舎もんで世間知らずで、

特に仲の良かったA、Bと三人で毎日バカやって、荒れた生活してたんだわ。 

オレとAは家族にもまるっきり見放されてたんだが、Bはお母さんだけは必ず構ってくれてた。

あくまで厳しい態度でだけど、何だかんだ言ってBのためにいろいろと動いてくれてた。 

 

そのB母子が中三のある時、かなりキツい喧嘩になった。

内容は言わなかったが、精神的にお母さんを痛め付けたらしい。 

お母さんをズタボロに傷つけてたら、親父が帰ってきた。

一目で状況を察した親父は、Bを無視して黙ったまんまお母さんに近づいていった。 

服とか髪とかボロボロなうえに、死んだ魚みたいな目で床を茫然と見つめてるお母さんを見て、親父はBに話した。

B父「お前、ここまで人を踏み躙れるような人間になっちまったんだな。

 母さんがどれだけお前を想ってるか、なんでわからないんだ」

親父はBを見ず、お母さんを抱き締めながら話してたそうだ。 

B「うるせえよ。てめえは殺してやろうか?あ?」 

Bは全く話を聞く気がなかった。 

だが親父は何ら反応する様子もなく、淡々と話を続けたらしい。 

B父「お前、自分には怖いものなんか何もないと、そう思ってるのか」

B「ねえな。あるなら見せてもらいてえもんだぜ」

親父は少し黙った後、話した。

B父「お前はオレの息子だ。母さんがお前をどれだけ心配してるかもよくわかってる。

 だがな、お前が母さんに対してこうやって踏み躙る事しか出来ないなら、オレにも考えがある。 

 これは父としてでなく、一人の人間、他人として話す。

 先にはっきり言っておくが、オレがこれを話すのは、お前が死んでも構わんと覚悟した証拠だ。

 それでいいなら聞け」

その言葉に何か凄まじい気迫みたいなものを感じたらしいが、「いいから話してみろ!」と煽った。 

B父「森の中で、立入禁止になってる場所知ってるよな。あそこに入って奥へ進んでみろ。後は行けばわかる。

 そこで今みたいに暴れてみろよ。出来るもんならな」

 

親父が言う森ってのは、オレ達が住んでるとこに小規模の山があって、そのふもとにある場所。

樹海みたいなもんかな。

山自体は普通に入れるし、森全体も普通なんだが、中に入ってくと途中で立入禁止になってる区域がある。 

言ってみれば、四角の中に小さい円を書いて、その円の中は入るなってのと同じで、きわめて部分的。 

二メートル近い高さの柵で囲まれ、柵には太い綱と有刺鉄線、

柵全体にはが連なった白い紙がからまってて(独自の紙垂みたいな)、大小いろんな鈴が無数についてる。 

変に部分的なせいで、柵自体の並びも歪だし、とにかく尋常じゃないの一言に尽きる。 

あと、特定の日に、巫女さんが入り口に数人集まってるのを見かけるんだが、

その日は付近一帯が立入禁止になるため、何してんのかは謎だった。 

いろんな噂が飛び交ってたが、カルト教団の洗脳施設がある…ってのが一番広まってた噂。

そもそも、その地点まで行くのが面倒だから、その奥まで行ったって話はほとんどなかったな。 

 

親父はBの返事を待たずに、お母さんを連れて2階に上がってった。

Bはそのまま家を出て、待ち合わせてたオレとAと合流。そこでオレ達も話を聞いた。 

A「父親がそこまで言うなんて相当だな」

オレ「噂じゃカルト教団のアジトだっけ。捕まって洗脳されちまえって事かね。

 怖いっちゃ怖いが…どうすんだ?行くのか?」 

B「行くに決まってんだろ。どうせ親父のハッタリだ」

面白半分でオレとAもついていき、三人でそこへ向かう事になった。

 

あれこれ道具を用意して、時間は夜中の一時過ぎぐらいだったかな。 

意気揚揚と現場に到着し、持ってきた懐中電灯で前を照らしながら森へ入っていった。

軽装でも進んで行けるような道だし、オレ達はいつも地下足袋だったんで歩きやすかったが、

問題の地点へは四十分近くは歩かないといけない。 

 

ところが、入って五分もしないうちにおかしな事になった。 

オレ達が入って歩きだしたのとほぼ同じタイミングで、何か音が遠くから聞こえ始めた。

夜の静けさがやたらとその音を強調させる。最初に気付いたのはBだった。 

B「おい、何か聞こえねぇか?」 

Bの言葉で耳をすませてみると、確かに聞こえた。

落ち葉を引きずるカサカサ…という音と、枝がパキッ…パキッ…と折れる音。

それが遠くの方から微かに聞こえてきている。 

遠くから微かに…というせいもあって、さほど恐怖は感じなかった。

人って考える前に、動物ぐらいいるだろ。そんな思いもあり、構わず進んでいった。 

 

動物だと考えてから気にしなくなったが、そのまま二十分ぐらい進んできたところでまたBが何か気付き、

オレとAの足を止めた。 

B「A、お前だけちょっと歩いてみてくれ」

A「?…何でだよ」

B「いいから早く」

Aが不思議そうに一人で前へ歩いていき、またこっちへ戻ってくる。

それを見て、Bは考え込むような表情になった。 

A「おい、何なんだよ?」 

オレ「説明しろ!」 

オレ達がそう言うと、Bは「静かにしてよ~く聞いててみ」と、

Aにさせたように一人で前へ歩いていき、またこっちに戻ってきた。

 

二、三度繰り返して、ようやくオレ達も気付いた。 

遠くから微かに聞こえてきている音は、オレ達の動きに合わせていた。

オレ達が歩きだせばその音も歩きだし、オレ達が立ち止まると音も止まる。

まるでこっちの様子がわかっているようだった。 

何かひんやりした空気を感じずにはいられなかった。 

周囲にオレ達が持つ以外の光はない。月は出てるが、木々に遮られほとんど意味はなかった。 

懐中電灯つけてんだから、こっちの位置がわかるのは不思議じゃない…

だが、一緒に歩いてるオレ達でさえ、互いの姿を確認するのに目を凝らさなきゃいけない暗さだ。 

そんな暗闇で、光もなしに何してる? 

なぜオレ達と同じように動いてんだ? 

B「ふざけんなよ。誰かオレ達を尾けてやがんのか?」

A「近づかれてる気配はないよな。向こうはさっきからずっと同じぐらいの位置だし」

Aが言うように、森に入ってからここまでの二十分ほど、オレ達とその音との距離は一向に変わってなかった。

近づいてくるわけでも遠ざかるわけでもない。終始同じ距離を保ったままだった。 

オレ「監視されてんのかな?」 

A「そんな感じだよな…カルト教団とかなら、何か変な装置とか持ってそうだしよ」

音から察すると、複数ではなく、一人がずっとオレ達にくっついてるような感じだった。

しばらく足を止めて考え、下手に正体を探ろうとするのは危険と判断し、

一応あたりを警戒しつつ、そのまま先へ進む事にした。 

 

それからずっと音に付きまとわれながら進んでたが、やっと柵が見えてくると、音なんかどうでもよくなった。 

音以上に、その柵の様子の方が意味不明だったからだ。 

三人とも見るのは初めてだったんだが、想像以上のものだった。

同時に、それまでなかったある考えが頭に過ってしまった。 

普段は霊などバカにしてるオレ達から見ても、

その先にあるのが、現実的なものでない事を示唆しているとしか思えない。

それも半端じゃなくやばいものが。 

まさか、そういう意味でいわくつきの場所なのか…?

森へ入ってから初めて、今オレ達はやばい場所にいるんじゃないかと思い始めた。 

A「おい、これぶち破って奥行けってのか?誰が見ても普通じゃねえだろこれ!」 

B「うるせえな、こんなんでビビってんじゃねえよ!」 

柵の異常な様子に怯んでいたオレとAを怒鳴り、Bは持ってきた道具あれこれで柵をぶち壊し始めた。

破壊音よりも、鳴り響く無数の鈴の音が凄かった。 

 

しかし、ここまでとは想像してなかったため、持参した道具じゃ貧弱すぎた。 

というか、不自然なほどに頑丈だったんだ。特殊な素材でも使ってんのかってぐらい、びくともしなかった。 

結局よじのぼるしかなかったんだが、綱のおかげで上るのはわりと簡単だった。 

だが柵を越えた途端、激しい違和感を覚えた。

閉塞感と言うのかな、檻に閉じ込められたような息苦しさを感じた。

AとBも同じだったみたいで、踏み出すのを躊躇したんだが、柵を越えてしまったからにはもう行くしかなかった。

 

先へ進むべく歩きだしてすぐ、三人とも気付いた。

ずっと付きまとってた音が、柵を越えてからバッタリ聞こえなくなった事に。 

正直、そんなんもうどうでもいいとさえ思えるほど嫌な空気だったが、Aが放った言葉でさらに嫌な空気が増した。

A「もしかしてさぁ、そいつ…ずっとここにいたんじゃねえか?

 この柵、こっから見える分だけでも出入口みたいなのはないしさ、それで近付けなかったんじゃ…」

B「んなわけねえだろ。オレ達が音の動きに気付いた場所ですら、こっからじゃもう見えねえんだぞ?

 それなのに、入った時点からオレ達の様子がわかるわけねえだろ」

普通に考えれば、Bの言葉が正しかった。禁止区域と森の入り口はかなり離れてる。

時間にして四十分ほどと書いたが、オレ達だってちんたら歩いてたわけじゃないし、

距離にしたらそれなりの数字にはなる。 

だが、現実のものじゃないかも…という考えが過ってしまった事で、Aの言葉を頭では否定できなかった。

柵を見てから絶対やばいと感じ始めていたオレとAを尻目に、Bだけが俄然強気だった。 

B「霊だか何だか知らねえけどよ、お前の言うとおりだとしたら、そいつはこの柵から出られねえって事だろ?

 そんなやつ大したことねえよ。」 

そう言って奧へ進んでいった。 

 

柵を越えてから二、三十分歩き、うっすらと反対側の柵が見え始めたところで、不思議なものを見つけた。 

特定の六本の木に注連縄が張られ、その六本の木を六本の縄で括り、六角形の空間がつくられていた。

柵にかかってるのとは別の、正式なものっぽい紙垂もかけられてた。

そして、その中央に賽銭箱みたいなのがポツンと置いてあった。 

目にした瞬間は、三人とも言葉が出なかった。特にオレとAは、マジでやばい事になってきたと焦ってさえいた。 

バカなオレ達でも、注連縄が通常どんな場で何のために用いられてるものか、何となくは知ってる。

そういう意味でも、ここを立入禁止にしているのは、間違いなく目の前のこの光景のためだ。

オレ達はとうとう、来るとこまで来てしまったわけだ。 

オレ「お前の親父が言ってたの、たぶんこれの事だろ」

A「暴れるとか無理。明らかにやばいだろ」

だが、Bは強気な姿勢を崩さなかった。 

B「別に悪いもんとは限らねえだろ。とりあえずあの箱見て見ようぜ!宝でも入ってっかもな」

Bは縄をくぐって六角形の中に入り、箱に近づいてった。

オレとAは、箱よりもBが何をしでかすかが不安だったが、とりあえずBに続いた。 

 

野晒しで雨とかにやられたせいか、箱はサビだらけだった。

上部は蓋になってて、網目で中が見える。だが、蓋の下にまた板が敷かれていて結局見れない。 

さらに箱には、チョークか何かで凄いのが書いてあった。 

たぶん家紋?的な意味合いのものだと思うんだが、

前後左右それぞれの面に、いくつも紋所みたいなのが書き込まれてて、しかも全部違うやつ。

ダブってるのは一個もなかった。 

オレとAは極力触らないようにし、構わず触るBにも、乱暴にはしないよう注意させながら箱を調べてみた。 

どうやら地面に底を直接固定してあるらしく、大して重さは感じないのに持ち上がらなかった。

中身をどうやって見るのかと隅々までチェックすると、後ろの面だけ外れるようになってるのに気付いた。 

B「おっ、ここだけ外れるぞ!中見れるぜ!」

Bが箱の一面を取り外し、オレとAもBの後ろから中を覗き込んだ。


箱の中には、四隅にペットボトルのような形の壺?が置かれてて、その中には何か液体が入ってた。 

箱の中央に、先端が赤く塗られた五センチぐらいの楊枝みたいなのが、変な形で置かれてた。 

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こんな形で六本。接する四ヶ所だけ赤く塗られてる。 

オレ「なんだこれ?爪楊枝か?」 

A「おい、ペットボトルみてえなの中に何か入ってるぜ。気持ちわりいな」

B「ここまで来てペットボトルと爪楊枝かよ。意味わかんねえ」

オレとAは、ぺットボトルみたいな壺を少し触ってみたぐらいだったが、Bは手に取って匂いを嗅いだりした。 

元に戻すと、今度は/\/\>を触ろうと手を伸ばす。 

ところが、汗をかいていたのか指先に一瞬くっつき、そのせいで離すときに形がずれてしまった。

その一瞬、

チリンチリリン!!チリンチリン!! 

オレ達が来た方とは反対、六角形地点のさらに奧にうっすらと見えている柵の方から、物凄い勢いで鈴の音が鳴った。

さすがに三人とも「うわっ」と声を上げてビビり、一斉に顔を見合わせた。 

B「誰だちくしょう!ふざけんなよ!」 

Bはその方向へ走りだした。 

オレ「バカ、そっち行くな!」 

A「おいB!やばいって!」 

慌てて後を追おうと身構えると、Bは突然立ち止まり、前方に懐中電灯を向けたまま動かなくなった。 

「何だよ、フリかよ?」と、オレとAがホッとして急いで近付いてくと、Bの体が小刻みに震えだした。 

「お、おい、どうした…?」

言いながら、無意識に照らされた先を見た。 

Bの懐中電灯は、立ち並ぶ木々の中の一本、その根元のあたりを照らしていた。 

その陰から、女の顔がこちらを覗いていた。

ひょこっと顔半分だけ出して、眩しがる様子もなくオレ達を眺めていた。 

上下の歯をむき出しにするように、い~っと口を開け、目は据わっていた。 

「うわぁぁぁぁぁ!!」

誰のものかわからない悲鳴と同時に、オレ達は一斉に振り返り走った。

頭は真っ白で、体が勝手に最善の行動をとったような感じだった。

互いを見合わす余裕もなく、それぞれが必死で柵へ向かった。 

 

柵が見えると一気に飛び掛かり、急いでよじのぼる。

上まで来たらまた一気に飛び降り、すぐに入り口へ戻ろうとした。 

だが、混乱しているのか、Aが上手く柵を上れずなかなかこっちに来ない。 

オレ「A!早く!!」 

B「おい!早くしろ!!」 

Aを待ちながら、オレとBはどうすりゃいいかわからなかった。 

オレ「何だよあれ!?何なんだよ!?」 

B「知らねえよ黙れ!!」 

完全にパニック状態だった。 

その時、

チリリン!!チリンチリン!! 

凄まじい大音量で鈴の音が鳴り響き、柵が揺れだした。 

何だ…!?どこからだ…!?

オレとBはパニック状態になりながらも、周囲を確認した。 

入り口とは逆、山へ向かう方角から鳴り響き、近づいているのか音と柵の揺れがどんどん激しくなってくる。 

オレ「やばいやばい!」 

B「まだかよ!早くしろ!!」 

オレ達の言葉が余計にAを混乱させていたのはわかってたが、急かさないわけにはいかなかった。 

Aは無我夢中に必死で柵をよじのぼった。

 

Aがようやく上りきろうかというその時、オレとBの視線はそこになかった。

がたがたと震え、体中から汗が噴き出し、声を出せなくなった。 

それに気付いたAも、柵の上からオレ達が見ている方向を見た。 

山への方角にずらっと続く柵を伝った先、しかもこっち側にあいつが張りついていた。 

顔だけかと思ったそれは、裸で上半身のみ、右腕左腕が三本ずつあった。 

それらで器用に綱と有刺鉄線を掴んで、い~っと口を開けたまま、巣を渡る蜘蛛のようにこちらへ向かってきていた。

とてつもない恐怖。

「うわぁぁぁぁ!!」

Aがとっさに上から飛び降り、オレとBに倒れこんできた。

それではっとしたオレ達は、すぐにAを起こし、一気に入り口へ走った。 

後ろは見れない。前だけを見据え、ひたすら必死で走った。 

全力で走れば三十分もかからないだろうに、何時間も走ったような気分だった。

 

入り口が見えてくると、何やら人影も見えた。

おい、まさか…三人とも急停止し、息を呑んで人影を確認した。 

誰だかわからないが、何人かが集まってる。

あいつじゃない。そう確認できた途端に再び走りだし、その人達の中に飛び込んだ。

「おい!出てきたぞ!」

「まさか…本当にあの柵の先に行ってたのか!?」

「おーい!急いで奥さんに知らせろ!」

集まっていた人達はざわざわとした様子で、オレ達に駆け寄ってきた。

何て話しかけられたかすぐにはわからないぐらい、三人とも頭が真っ白で放心状態だった。 

 

そのままオレ達は車に乗せられ、

すでに三時をまわっていたにも関わらず、行事の時とかに使われる集会所に連れてかれた。 

中に入ると、うちは母親と姉貴が、Aは親父、Bはお母さんが来ていた。

Bのお母さんはともかく、ろくに会話した事すらなかったうちの母親まで泣いてて、

Aもこの時の親父の表情は、普段見た事ないようなもんだったらしい。 

B母「みんな無事だったんだね…!よかった…!」 

Bのお母さんとは違い、オレは母親に殴られAも親父に殴られた。

だが、今まで聞いた事ない暖かい言葉をかけられた。 

 

しばらくそれぞれが家族と接したところで、Bのお母さんが話した。 

B母「ごめんなさい。今回の事はうちの主人、ひいては私の責任です。

 本当に申し訳ありませんでした…!本当に…」と、何度も頭を下げた。 

よその家とはいえ、子供の前で親がそんな姿をさらしているのは、やっぱり嫌な気分だった。 

A父「もういいだろう奥さん。こうしてみんな無事だったんだから」

オレ母「そうよ。あなたのせいじゃない」

 

この後、ほとんど親同士で話が進められ、オレ達はぽかんとしてた。 

時間が遅かったのもあって、無事を確認しあって終わり…って感じだった。

この時は何の説明もないまま解散したわ。 

 

一夜明けた次の日の昼頃、オレは姉貴に叩き起こされた。

目を覚ますと、昨夜の続きかというぐらい姉貴の表情が強ばっていた。 

オレ「なんだよ?」 

姉貴「Bのお母さんから電話。やばい事になってるよ」

受話器を受け取り電話に出ると、凄い剣幕で叫んできた。 

B母『Bが…Bがおかしいのよ!昨夜あそこで何したの!?柵の先へ行っただけじゃなかったの!?』

 

とても会話になるような雰囲気じゃなく、いったん電話を切ってオレはBの家へ向かった。

同じ電話を受けたらしくAも来ていて、二人でBのお母さんに話を聞いた。 

話によると、Bは昨夜家に帰ってから、急に両手両足が痛いと叫びだした。

痛くて動かせないという事なのか、両手両足をぴんと伸ばした状態で倒れ、

その体勢で痛い痛いとのたうちまわったらしい。 

お母さんが何とか対応しようとするも、「いてぇよぉ」と叫ぶばかりで意味がわからない。

必死で部屋までは運べたが、ずっとそれが続いてるので、オレ達はどうなのかと思い電話してきたという事だった。

 

話を聞いてすぐBの部屋へ向かうと、階段からでも叫んでいるのが聞こえた。

「いてぇいてぇよぉ!」と繰り返している。 

部屋に入ると、やはり手足はぴんと伸びたまま、のたうちまわっていた。 

オレ「おい!どうした!」 

A「しっかりしろ!どうしたんだよ!」

オレ達が呼び掛けても、「いてぇよぉ」と叫ぶだけで目線すら合わせない。 

どうなってんだ…オレとAは何が何だかさっぱりわからなかった。

一度お母さんのとこに戻ると、さっきとはうってかわって静かな口調で聞かれた。 

B母「あそこで何をしたのか話してちょうだい。それで全部わかるの。昨夜あそこで何をしたの?」

何を聞きたがっているのかは、もちろんわかってたが、

答えるためにあれをまた思い出さなきゃいけないのが苦痛となり、うまく伝えられなかった。 

というか、あれを見たっていうのが大部分を占めてしまってたせいで、

何が原因かってのが、すっかり置いてきぼりになってしまっていた。 

「何を見たかでなく何をしたか」と尋ねるBのお母さんは、それを指摘しているようだった。 

Bのお母さんに言われ、オレ達は何とか昨夜の事を思い出し、原因を探った。 

何を見たか?なら、オレ達も今のBと同じ目にあってるはず。

だが何をしたか?でも、あれに対してほとんど同じ行動だったはずだ。 

箱だってオレ達も触ったし、ペットボトルみたいなのも一応オレ達も触わってる。

後は…楊枝…

二人とも気付いた。楊枝だ。あれにはBしか触ってないし、形もずらしちゃってる。しかも元に戻してない。

オレ達はそれをBのお母さんに伝えた。 

すると、みるみる表情が変わり震えだした。

そしてすぐさま棚の引き出しから何かの紙を取出し、それを見ながらどこかに電話をかけた。

オレとAは様子を見守るしかなかった。 

 

しばらくどこかと電話で話した後、戻ってきたBのお母さんは震える声でオレ達に言った。 

B母「あちらに伺う形ならすぐにお会いしてくださるそうだから、今すぐ帰って用意しておいてちょうだい。

 あなた達のご両親には私から話しておくわ。何も言わなくても準備してくれると思うから。

 明後日またうちに来てちょうだい」 

意味不明だった。誰に会いにどこへ行くって?説明を求めてもはぐらかされ、すぐに帰らされた。

 

一応二人とも真っすぐ家に帰ってみると、何を聞かれるでもなく、「必ず行ってきなさい」とだけ言われた。 

意味がまったくわからんまま、二日後にオレとAは、Bのお母さんと三人である場所へ向かった。

Bは、前日にすでに連れていかれたらしい。

ちょっと遠いのかな…ぐらいだと思ってたが、町どころか県さえ違う。 

新幹線で数時間かけて、さらに駅から車で数時間。絵に書いたような深い山奥の村まで連れてかれた。 

 

その村のまたさらに外れの方、ある屋敷にオレ達は案内された。 

でかくて古いお屋敷で、離れや蔵なんかもあるすごい立派なもんだった。

Bのお母さんが呼び鈴を鳴らすと、おっさんと女の子がオレ達を出迎えた。 

おっさんの方は、その筋みたいなガラ悪い感じでスーツ姿。 

女の子は、オレ達より少し年上ぐらいで、白装束に赤い袴。いわゆる巫女さんの姿だった。 

挨拶では、どうやら巫女さんの伯父らしいおっさんは、普通によくある名字を名乗ったんだが、

巫女さんは『あおいかんじょ?(オレはこう聞こえた)』とかいう、よくわからない名を名乗ってた。 

名乗ると言っても、一般的な認識とは全く違うものらしい。

よくわからんがようするに、彼女の家の素性は一切知る事が出来ないって事みたい。 

実際オレ達は、その家や彼女達について何も知らないけど、とりあえずここでは見やすいように『葵』って書くわ。

 

だだっ広い座敷に案内され、わけもわからんまま、ものものしい雰囲気で話が始まった。 

伯父「息子さんは今安静にさせてますわ。この子らが一緒にいた子ですか?」

B母「はい。この三人であの場所へ行ったようなんです」

伯父「そうですか。君ら、わしらに話してもらえるか?

 どこに行った、何をした、何を見た、出来るだけ詳しくな」

突然話を振られて戸惑ったが、オレとAは何とか詳しくその夜の出来事をおっさん達に話した。 

ところが、楊枝のくだりで「コラ、今何つった?」と、いきなりドスの効いた声で言われ、

オレ達はますます状況が飲み込めず混乱してしまった。

A「は、はい?」

伯父「おめぇら、まさかあれを動かしたんじゃねえだろうな!?」

身を乗り出し、今にも掴み掛かってきそうな勢いで怒鳴られた。 

すると葵がそれを制止し、蚊の泣くようなか細い声で話しだした。

葵「箱の中央…小さな棒のようなものが、ある形を表すように置かれていたはずです。

 それに触れましたか?触れた事によって、少しでも形を変えてしまいましたか?」

オレ「はぁあの、動かしてしまいました。形もずれちゃってたと思います」

葵「形を変えてしまったのはどなたか、覚えてらっしゃいますか?

 触ったかどうかではありません。形を変えたかどうかです」

オレとAは顔を見合わせ、Bだと告げた。 

すると、おっさんは身を引いてため息をつき、Bのお母さんに言った。 


伯父「お母さん、残念ですがね、息子さんはもうどうにもならんでしょう。

 わしは詳しく聞いてなかったが、あの症状なら他の原因も考えられる。

 まさかあれを動かしてたとは思わなかったんでね」

B母「そんな…」 

 

それ以上の言葉もあったんだろうが、Bのお母さんは言葉を飲み込んだような感じで、しばらく俯いてた。 

口には出せなかったが、オレ達も同じ気持ちだった。

Bはもうどうにもならんってどういう意味だ?一体何の話をしてんだ? 

そう問いたくても、声に出来なかった。 

オレ達三人の様子を見て、おっさんはため息混じりに話しだした。 

ここでようやく、オレ達が見たものに関する話がされた。

 

俗称は『生離蛇螺』/『生離唾螺』

古くは『姦姦蛇螺』/『姦姦唾螺』

なりじゃら、なりだら、かんかんじゃら、かんかんだらなど、

知っている人の年代や家柄によって、呼び方はいろいろあるらしい。 

現在では、一番多い呼び方は単に『だら』。

おっさん達みたいな特殊な家柄では、『かんかんだら』の呼び方が使われるらしい。 

 

もはや神話や伝説に近い話。

人を食らう大蛇に悩まされていたある村の村人達は、

神の子として様々な力を代々受け継いでいた、ある巫女の家に退治を依頼した。 

依頼を受けたその家は、特に力の強かった一人の巫女を大蛇討伐に向かわせる。 

村人達が陰から見守る中、巫女は大蛇を退治すべく懸命に立ち向かった。 

しかし、わずかな隙をつかれ、大蛇に下半身を食われてしまった。

それでも巫女は村人達を守ろうと様々な術を使い、必死で立ち向かった。 

ところが、下半身を失っては勝ち目がないと決め込んだ村人達はあろう事か、

巫女を生け贄にする代わりに村の安全を保障してほしいと、大蛇に持ちかけた。 

強い力を持つ巫女を疎ましく思っていた大蛇はそれを承諾。

食べやすいようにと村人達に腕を切り落とさせ、達磨状態の巫女を食らった。 

そうして、村人達は一時の平穏を得た。

後になって、巫女の家の者が思案した計画だった事が明かされる。 

この時の巫女の家族は六人。

 

異変はすぐに起きた。 

大蛇がある日から姿を見せなくなり、襲うものがいなくなったはずの村で、次々と人が死んでいった。 

村の中で、山の中で、森の中で。

死んだ者達はみな、右腕・左腕のどちらかが無くなっていた。 

十八人が死亡。(巫女の家族六人を含む) 

生き残ったのは四人だった。 

 

おっさんと葵が交互に説明した。 

伯父「これがいつからどこで伝わってたのかはわからんが、あの箱は一定の周期で場所を移して供養されてきた。

 その時々によって管理者は違う。箱に家紋みたいのがあったろ?ありゃ今まで供養の場所を提供してきた家々だ。

 うちみたいな家柄のもんでそれを審査する集まりがあってな、そこで決められてる。

 まれに自ら志願してくるバカもいるがな。 

 管理者以外にゃかんかんだらに関する話は一切知らされない。

 付近の住民には、いわくがあるって事と、万が一の時の相談先だけが管理者から伝えられる。 

 伝える際には相談役、つまりわしらみたいな家柄のもんが立ち合うから、

 それだけでいわくの意味を理解するわけだ。

 今の相談役はうちじゃねえが、至急って事で、昨日うちに連絡がまわってきた」

どうやら、一昨日Bのお母さんが電話していたのは別のとこらしく、

話を聞いた先方は、Bを連れてこの家を尋ね、話し合った結果、こっちに任せたらしい。

Bのお母さんは、オレ達があそこに行っていた間にすでにそこに電話してて、ある程度詳細を聞かされていたようだ。

葵「基本的に、山もしくは森に移されます。

 御覧になられたと思いますが、六本の木と六本の縄は村人達を、六本の棒は巫女の家族を、

 四隅に置かれた壺は、生き残られた四人を表しています。

 そして、六本の棒が成している形こそが、巫女を表しているのです。 

 なぜこのような形式がとられるようになったか。

 箱自体に関しましても、いつからあのようなものだったか。

 私の家を含め、今現在では伝わっている以上の詳細を知る者はいないでしょう」

ただ、最も語られてる説としては、

生き残った四人が、巫女の家で怨念を鎮めるためのありとあらゆる事柄を調べ、

その結果生まれた独自の形式ではないか…という事らしい。

柵に関しては、鈴だけが形式に従ったもので、綱とかはこの時の管理者によるものだったらしい。 

伯父「うちの者で、かんかんだらを祓ったのは過去に何人かいるがな、

 その全員が二、三年以内に死んでんだ。ある日突然な。

 事を起こした当事者も、ほとんど助かってない。それだけ難しいんだよ」 

 

ここまで話を聞いても、オレ達三人は完全に置いてかれてた。きょとんとするしかなかったわ。 

だが、事態はまた一変した。 

伯父「お母さん、どれだけやばいものかは何となくわかったでしょう。

 さっきも言いましたが、棒を動かしてさえいなければ何とかなりました。

 しかし、今回はだめでしょうな」

B母「お願いします。何とかしてやれないでしょうか。私の責任なんです。どうかお願いします」

Bのお母さんは引かなかった。

一片たりともお母さんのせいだとは思えないのに、自分の責任にしてまで頭を下げ、必死で頼み続けてた。

でも泣きながらとかじゃなくて、何か覚悟したような表情だった。 

伯父「何とかしてやりたいのはわしらも同じです。しかし、棒を動かしたうえであれを見ちまったんなら…… 

 お前らも見たんだろう。お前らが見たのが大蛇に食われたっつう巫女だ。

 下半身も見たろ?それであの形の意味がわかっただろ?」 

「…えっ?」

オレとAは言葉の意味がわからなかった。下半身?オレ達が見たのは上半身だけのはずだ。 

A「あの、下半身っていうのは…?上半身なら見ましたけど…」

それを聞いておっさんと葵が驚いた。 

伯父「おいおい何言ってんだ?お前らあの棒を動かしたんだろ?だったら下半身を見てるはずだ」

葵「あなた方の前に現われた彼女は、下半身がなかったのですか?では、腕は何本でしたか?」

「腕は六本でした。左右三本ずつです。でも、下半身はありませんでした」

オレとAは、互いに確認しながらそう答えた。 

すると急におっさんがまた身を乗り出し、オレ達に詰め寄ってきた。 

伯父「間違いねえのか?ほんとに下半身を見てねえんだな?」

オレ「は、はい…」 

おっさんは再びBのお母さんに顔を向け、ニコッとして言った。 

伯父「お母さん、何とかなるかもしれん」

おっさんの言葉に、Bのお母さんもオレ達も、息を呑んで注目した。 

二人は言葉の意味を説明してくれた。 

葵「巫女の怨念を浴びてしまう行動は、二つあります。 

 やってはならないのは、巫女を表すあの形を変えてしまう事。 

 見てはならないのは、その形が表している巫女の姿です」

伯父「実際には、棒を動かした時点で終わりだ。必然的に巫女の姿を見ちまう事になるからな。 

 だが、どういうわけかお前らは、それを見てない。

 動かした本人以外も同じ姿で見えるはずだから、お前らが見てないならあの子も見てないだろう」

オレ「見てない、っていうのはどういう意味なんですか?オレ達が見たのは…」 

葵「巫女本人である事には変わりありません。ですが、かんかんだらではないのです。

 あなた方の命を奪う意志がなかったのでしょうね。 

 かんかんだらではなく、巫女として現われた。その夜の事は、彼女にとってはお遊戯だったのでしょう」

巫女とかんかんだらは同一の存在であり、別々の存在でもある…?という事らしい。 

伯父「かんかんだらが出てきてないなら、今あの子を襲ってるのは、葵が言うようにお遊び程度のもんだろうな。

 わしらに任せてもらえれば、長期間にはなるが何とかしてやれるだろう」

緊迫していた空気が初めて和らいだ気がした。

Bが助かるとわかっただけで充分だったし、この時のBのお母さんの表情は本当に凄かった。

この何日かでどれだけBを心配していたか、その不安とかが一気にほぐれたような、そういう笑顔だった。 

それを見ておっさんと葵も雰囲気が和らぎ、急に普通の人みたいになった。 

伯父「あの子は正式にわしらで引き受けますわ。お母さんには後で説明させてもらいます。

 お前ら二人は、一応葵に祓ってもらってから帰れ。今後は怖いもの知らずもほどほどにしとけよ」

 

この後Bに関して少し話したのち、お母さんは残り、オレ達はお祓いしてもらってから帰った。 

この家の決まりだそうで、Bには会わせてもらえず、どんな事をしたのかもわからなかった。

転校扱いだったのか在籍してたのかは知らんが、これ以来一度も見てない。

まぁ死んだとか言うことはなく、すっかり更正して今はちゃんとどこかで生活してるそうだ。

ちなみにBの親父は、一連の騒動に一度たりとも顔を出してこなかった。どういうつもりか知らんが。 

 

オレとAも、わりとすぐ落ち着いた。

理由はいろいろあったが、一番大きかったのは、やっぱりBのお母さんの姿だった。

ちょっとした後日談もあって、たぶん一番大変だったはずだ。 

母親ってのがどんなもんか、考えさせられた気がした。

それにこれ以来うちもAんとこも、親の方から少しづつ接してくれるようになった。

そういうのもあって、自然とバカはやらなくなったな。 

 

一応他にわかった事としては、

特定の日に集まってた巫女さんは、相談役になった家の人。

かんかんだらは、危険だと重々認識されていながら、ある種の神に似た存在にされてる。 

大蛇が山だか森だかの神だったらしい。それで年に一回、神楽を舞ったり祝詞を奏上したりするんだと。 

 

あと、オレ達が森に入ってから音が聞こえてたのは、かんかんだらは柵の中で放し飼いみたいになってるかららしい。

でも六角形と箱のあれが封印みたいになってるらしく、

棒の形や六角形を崩したりしなければ、姿を見せる事はほとんどないそうだ。 

 

供養場所は、何らかの法則によって、山や森の中の限定された一部分が指定されるらしく、

入念に細かい数字まで出して範囲を決めるらしい。

基本的にその区域からは出られないらしいが、

柵などで囲んでる場合は、オレ達が見たみたいに外側に張りついてくる事もある。 

 

わかったのはこれぐらい。

 

オレ達の住んでるとこからはもう移されたっぽい。

二度と行きたくないから確かめてないけど、一年近く経ってから柵の撤去が始まったから、

たぶん今は別の場所にいるんだろな。

 

個人的意見

これはSFすぎて、怖くはないですが、

畏怖の念を抱かずにはいられません。