一夜官女祭が催行されました。
この御祭は、悲しい伝説に基づいています。
昔、この野里は、風水害と厄病の流行に苦しんでいました。
古老達は、村を救わんとの願いから、ある一つの決断をします。
毎年、白矢の打ち込まれた家の娘を神に捧げる。
人身御供の娘は毎年定められた日の深夜に、
唐櫃に入れられて神社境内に放置されたのです。
そして、七年目のこと。
村人たちがこの儀式の準備をしていると、一人の武士が訪れ、
なにごとが起きているのかと尋ねました。
話しを聞いた武士は怒りの表情を見せます。
「神は人を救うもので犠牲にするものではない」
そう喝破すると、自身が唐櫃に入ると言い出します。
村人達はどう考えたでしょうか。
しかし、結局は武士の言葉通りにすることにしました。
今年ばかりは娘の入っていない唐櫃を境内に運び込むと、
一晩、そこに放置したのです。
翌朝、村人達が神社に行くと、
唐櫃は壊れ、境内は血塗れとなっていました。
血を追いかけると、隣の申村まで続いており、
大きな狒々が絶命していたのでした。
武士の姿もどこにも見えませんでした。
村を救い、なんの礼も求めることなく姿を消したのです。
この武士の正体であったと伝えられています。